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最高裁判所第一小法廷 昭和35年(あ)887号 判決 1960年9月08日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大浜高教の上告趣意第一点は違憲をいうが、記録を精査するに、所論供述中実況見分調書における供述記載は証拠とされたものとは認められないし、またその余の供述が所論のように任意性を妨げられたものであることを確認するに足る何らの資料もないから所論はその前提を欠くものであり、

同第二点は違憲をいうが、原判決の是認した第一審判決は所論各供述調書の外に挙示の補強証拠を掲げているのであるから、所論はその前提を欠くものであり(右補強証拠が所論過失の点に直接触れていなくとも、所論自白にかかる事実の真実性を保障するに十分であるから、補強証拠として欠けるところないものと認められる。なお、自白を補強すべき証拠は必ずしも自白にかかる犯罪事実の全部にわたって洩れなくこれを裏付けるものであることを必要とせず、自白にかかる事実の真実性を保障し得るものであれば足る旨の当裁判所第三小法廷昭和二五年一〇月一〇日宣告の判決、刑集四巻一〇号一九五九頁参照)

従って、以上はいずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第三点は、原審で主張判断のない事項に関するものであるばかりでなく、刑訴三二一条三項所定の書面には捜査機関が任意処分として行う検証の結果を記載したいわゆる実況見分調書も包含するものと解するを相当とし、かく解したからといって同条項の規定が憲法三七条二項前段に違反するものでないことは当裁判所大法廷判例(昭和二四年五月一八日宣告、刑集三巻六号七八九頁参照)に照らし明かであるから、原判決には所論憲法の解釈を誤ったかきんありとは云えず、所論は採用できない。

同第四点、所論は違憲をいうがその実質は単なる法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(判示の場合被告人に事故発生を未然に防止すべき注意義務ありとした原判決並びにその支持した第一審判決の判断は正当である。そして所論対向者において道路交通取締法施行令八条二項に定める所置を採らなかったとしても、右注意義務に消長あるものとは考えられないし、また右注意義務違反に対する罪責を判断するに当って、被告人は右違反に対する違法性の認識の可能性があったかなかったかを審究するの要あるものとは考えられない。

同第五点は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであり、

同第六点は量刑不当の主張であって、

以上、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

よって、同四〇八条により裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

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